知っておきたい宗教ごとに違う葬儀の執り行い方

はじめに

現代日本社会において、人生の最期をどのように迎えるか、そしてどのように見送るかという問いは、かつてないほど多様化しています。伝統的な家族制度や地域コミュニティの希薄化、価値観の多様化が進む中で、画一的な葬儀の形式はもはや万人にとっての正解ではなくなりつつあります。こうした変化を背景に、自身の死に備え、残される家族の負担を軽減するための活動である「終活」への関心が高まっています。エンディングノートの作成や葬儀の生前契約といった主体的な準備は、故人らしい旅立ちを実現するだけでなく、遺族が悲しみの中で直面するであろう混乱を未然に防ぐための重要な手段と位置づけられます。
本記事では、日本の葬送文化が直面するこの転換期を多角的に分析し、包括的な情報を提供することを目的とします。伝統的な仏式、神式、キリスト教式の葬儀を詳細に解説するとともに、近年増加傾向にある無宗教葬や自然葬といった新たな選択肢、さらには国際化が進む中で顕在化する外国籍者の葬儀にまつわる課題まで、幅広いテーマを網羅的に取り扱います。また、葬儀後の行政・法的手続きや、経済的な側面に深く言及することで、読者が人生の終え方について主体的に考え、納得のいく選択をするための羅針盤となることを目指します。

日本の葬儀の基本と伝統

葬儀の全体像と費用構造

日本の葬儀は、逝去後から火葬、そしてその後の法要へと続く一連の儀式で構成されるのが一般的です。
その基本となる流れは、「臨終→納棺→通夜→葬儀・告別式→火葬→拾骨→初七日法要」となります。これらの儀式を滞りなく進めるためには、行政手続きが不可欠です。まず、医師から死亡診断書を受け取った後、通常は葬儀社が代行して役所に死亡届を提出し、火葬許可証を取得します。
日本の葬儀にかかる費用は、形式や規模によって大きく変動しますが、一つの目安として、株式会社鎌倉新書による「第5回お葬式に関する全国調査(2022年)」のデータが参考になります。
この調査によると、葬儀費用の総額は平均110.7万円でした。この費用は、葬儀社への基本料金(67.8万円)、通夜や精進落としなどの飲食費(20.1万円)、参列者への返礼品代(22.8万円)に大別されます。この平均額は、2020年の調査と比較して約10万円減少しており、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う葬儀規模の縮小や参列者数の抑制が、この傾向を加速させたと考えられています。
また、葬儀費用とは別に、宗教者へのお礼として「お布施」が必要となります。仏式におけるお布施の平均金額は22.4万円とされており、読経料や戒名料などが含まれます。神式では「祭祀料」、キリスト教式では「お花料」など、宗教によって呼び名や意味合いが異なります。
経済的な負担を軽減するための公的な支援制度も存在します。生活保護制度には、最低限の葬儀費用を支給する「葬祭扶助」という制度があり、2023年10月時点での基準額は、大人で212,000円以内と定められています。また、参列者から受け取る香典(平均47.2万円)も、遺族の負担を軽減するために活用されることが多いです。

さらに、葬儀の形式を家族葬や一日葬といった小規模なものにすることで、費用を抑えることも可能です。例えば、一日葬の基本料金の平均費用は527,800円と、一般葬に比べて費用負担が軽減されるという特徴があります。
この葬儀費用の平均値の減少は、単なる一時的な経済状況の変化にとどまらず、日本の葬送文化の根底にある価値観の変容を反映していると分析できます。多くの人々が家族葬や一日葬を経験したことで、大規模な葬儀に比べて費用が抑えられ、遺族の精神的負担も軽減されるという利点を実感しました。
これにより、パンデミック収束後も、「シンプルで負担の少ない供養」を志向する傾向は定着していくと推測されます。この変化は、従来の葬儀ビジネスモデルに再考を迫る一方で、エンディングノート作成支援や葬儀の生前契約といった、葬儀前後のサービスを拡充する新たなビジネスの機会を生み出す可能性も秘めています。

主要な宗教・宗派別葬儀

仏式葬儀

仏教は、死を終わりではなく、魂がこの世とあの世を巡る「輪廻転生」の過程と捉えます。このため、葬儀の目的は、故人が苦しみのない世界である極楽浄土へ向かえるよう、読経や焼香を通じて遺族が故人の冥福を祈り、善行を積むことにあります。しかし、この基本的な考え方は共通しているものの、宗派によってその教えや儀式には独自の世界観が色濃く反映されています。

浄土真宗

「臨終即往生」の教えに基づき、故人は亡くなると同時に阿弥陀如来によって極楽浄土に迎えられると考えます。したがって、故人の成仏を祈る必要はなく、葬儀は故人の往生を祝い、阿弥陀如来への感謝を捧げる儀式となります。焼香の作法も独特で、香を額に押しいただかず、1回(本願寺派)または2回(大谷派)くべるのが特徴です。また、香典の表書きは「御霊前」ではなく、「御仏前」と記すことがマナーとされています。

曹洞宗

故人を仏の弟子とし、悟りの境地へ送り出すことを目的とします。荘厳な儀式として「授戒式」と「引導式」が行われます。授戒式では、煩悩を捨て仏門に入る証として髪を剃る儀式(剃髪)が行われますが、現在は剃る真似にとどまることがほとんどです。引導式では、悟りの世界へ送り出すための「引導法語」が唱えられ、最後に導師が大きな声で「喝!」と一喝する作法が特徴的です。

真言宗

故人がこの世で大日如来と一体となる「即身成仏」を目指します。特徴的な儀式として、「授戒」(故人に仏の戒を授ける)と「灌頂」(故人の頭頂に水を注ぎ、大日如来と一体化させる)があります。焼香は3回が基本とされています。

臨済宗

故人が仏道を歩み、悟りの境地に至るための儀式です。悟りへの道を示す「引導法語」と、故人の迷いを断ち切り、悟りへと導くための「喝!」という一喝が特徴的です。焼香は1回または3回と宗派によって異なりますが、額に押しいただかないのが一般的です。

日蓮宗

唯一の教典である『法華経』を根本とし、「南無妙法蓮華経」の題目を唱える「題目読誦」が中心となります。僧侶だけでなく、参列者全員が一体となって題目を唱えることで故人の成仏を祈ります。祭壇や棺の周囲に「しきみ」を飾ることが重要視される独特の慣習があります。

天台宗

顕教(自身の救済と他者への慈悲)と密教(仏との一体化)の2つの教えが融合した葬儀を行います。故人の罪や穢れを清め、仏道への到達を助けることを目的とします。他の宗派とは異なる楕円形の数珠を用いるのが特徴です。

神式葬儀(神葬祭)

神道における死は「穢れ」と捉えられますが、故人の魂は家の守護神となり、子孫を永遠に見守る存在になると考えられています。このため、神式の葬儀(神葬祭)は、故人の御霊を家に留め、先祖と共に子孫繁栄を守る神様として祀るための儀式と位置づけられます。
仏式との最も顕著な相違点は、儀式の内容にあります。神式では、仏式の焼香や線香の代わりに、「玉串奉奠(たまぐしほうてん)」という儀式が行われます。
玉串は榊の枝に紙をつけたもので、自分の心を託して神前に捧げることで故人の御霊を慰めます。また、故人の死後の名前の付け方も異なります。仏式の「戒名」にあたるものとして、故人の生前の名前をそのまま尊重し、功績や徳を付加する「諡(おくりな)」や「霊名」が授けられます。神職への謝礼は「玉串料」と呼ばれ、仏式のお布施よりも安価な場合が多いとされています。
神道は、死を「穢れ」としつつも、故人の魂が守護神として「生」の世界と連続しているという、日本古来の死生観を反映しています。この思想は、仏教の「冥土」やキリスト教の「天国」といった他界への旅立ちとは異なる、より身近で連続的な世界観を構築しています。

キリスト教式葬儀

キリスト教では、死は人生の終わりではなく、故人が神のもとに召され、永遠の命を得るための「祝福すべきもの」と捉えられます 。したがって、葬儀は故人の魂の安息を願い、神への感謝を捧げる厳かな儀式となります。
キリスト教は、大きくカトリックとプロテスタントに分かれ、それぞれ葬儀の形式に違いがあります。カトリックの葬儀は、故人の罪が神に許されるよう祈る「ミサ」が中心となります 。このミサの中で、イエス・キリストの体と血を象徴するパンとワインを拝領する「聖体拝領」の儀式が行われますが、これは洗礼を受けた信徒のみが参加できます。
一方、プロテスタントの葬儀は、よりシンプルで、故人が天国で安らかに過ごせるよう祈り、聖書の朗読や「賛美歌」の斉唱が中心となります。賛美歌は、神への感謝と故人の安息、そして遺族への慰めを込めて歌われます。
共通の慣習として、仏式の焼香の代わりに、故人への敬意を表す「献花」が行われます。また、本来キリスト教には「通夜」の概念はありませんが、日本の風土に合わせて「通夜の集い」や「前夜祭」が設けられることがあります。仏式の香典に代わり「お花料」を渡す習慣も、日本独自の相互扶助の精神から生まれたものです。
日本の葬送文化が仏教や神道といった在来の要素に加えて、キリスト教の儀式を柔軟に取り入れてきた事実は、この文化が単一の宗教観に縛られることなく、時代や社会の変化に応じて独自の形を形成してきたことを示唆しています。

弔電を送る際に

仏式では当たり前のように送られることの多い弔電も、他の宗教ではルールが異なることがあるため注意しなくてはいけません。もし文章を考えるのが難しいのであれば、それぞれの宗教にあった文例を使ってみるといいでしょう。VERY CARDの弔電にはキリスト教式のオリジナル文例なども用意されているので安心して送ることができます。いざという時に困らないよう、宗教ごとの葬儀の執り行い方や供物、供花などの違いを知っておいて損はないでしょう。

自由な形式の葬儀と新たなニーズ

無宗教葬・自由葬

近年、宗教的な儀式にとらわれず、故人や遺族の意思を尊重した「無宗教葬」や「自由葬」が増加しています。この背景には、都市部を中心に先祖代々のお墓や菩提寺を持たない家庭が増えたこと、そして故人らしさを表現したいという強い願望があります。
無宗教葬の最大の利点は、葬儀の内容を自由にカスタマイズできることです。例えば、故人の好きだった音楽をBGMとして流したり(献奏)、思い出の写真をまとめた映像を上映したり、趣味の作品を会場に展示したりする演出が可能です。仏式での焼香の代わりに、参列者が一人ずつ花を捧げる「献花」がよく採用されます。
しかし、無宗教葬には課題も存在します。形式や決まりがないため、葬儀の企画から実行まで、すべてを遺族自身で行う必要があり、準備に大きな労力がかかります。また、特に年配の親族など、伝統的な宗教儀式を望む人々との間で、価値観の相違から意見の対立やトラブルが生じる可能性があります。

無宗教葬の増加は、単に宗教離れを意味するだけでなく、葬儀を「故人の人生を振り返り、皆で偲ぶ会」という、より個人的で情緒的なイベントとして捉え直す価値観の変容を示しています。
これは、死者との関係性を、宗教の教義という普遍的な枠組みではなく、個々の思い出や絆という個人的な文脈で捉えようとする動きであり、事前の話し合いと合意形成が不可欠です。

自然へと還る供養:樹木葬・海洋散骨

「お墓の継承者がいない」「お墓の管理負担を減らしたい」「故人が自然を愛していた」「費用を抑えたい」といった現代的なニーズを背景に、自然への回帰を志向する供養方法が増加しています。

樹木葬

樹木や草花を墓標として遺骨を埋葬するスタイルです。費用は埋葬方法によって大きく変動します。
合祀型: 他の遺骨と一緒に埋葬するため、費用は5万円から20万円と最も安価です。しかし、一度埋葬すると遺骨を個別に拾骨することはできません。

集合型

シンボルツリーを共有しますが、個別の区画に埋葬します。費用は20万円から100万円で、遺骨の取り出しが比較的容易です。

個別型

一区画ごとに樹木を植え、個別で埋葬します。費用は20万円から150万円と最も高くなります。
樹木葬の利点は、永代供養となるため継承者が不要であること、従来の墓石建立よりもコストを抑えられること、そして自然豊かな環境で供養できることです。一方で、交通アクセスが不便な場所が多いことや、お参りの実感が得にくいと感じる場合があること、経年で景観が変化する可能性がデメリットとして挙げられます。

海洋散骨

海洋散骨は、故人の遺骨を粉末状にして海に撒く供養方法です。
法律(刑法190条「死体遺棄罪」、墓埋法4条「墓地以外の埋葬禁止」)上、散骨を直接規制する条文はありません。国は「節度をもって行われる限り違法ではない」という見解を示しています。しかし、一部の自治体では条例で禁止している場所もあるため、事前に確認が必要です。

海洋散骨の需要は、過去5年間で8.3倍に急増しており、「お墓の管理が大変」「跡継ぎがいない」といった墓じまいの増加や、「シンプルに故人を送りたい」という価値観の変化が、その背景にあると考えられています。樹木葬や海洋散骨の増加は、供養の対象が物理的な「墓石」から、精神的な「記憶」や「自然」へとシフトしていることを示唆しています。

グローバル化と葬儀の多様性

日本で暮らす外国籍の方にとって、母国の宗教や文化に則った葬儀を望む場合、日本の法律や慣習との間で大きな課題が生じることがあります。これは、日本の葬送文化が「火葬」を前提に形成されてきた歴史的背景と深く関わっています。

イスラム教徒の葬儀

イスラム教では、死は人生の終わりではなく、アッラーの審判を経て来世に復活するための通過点と考えられています。このため、復活の日に備えて生前の肉体を保つことが重要視されており、火葬は故人への侮辱と見なされ、厳格に禁じられています。教義上、死後24時間以内に土葬(埋葬)することが原則です。
しかし、法律上土葬が完全に禁止されているわけではないものの、火葬が99%以上を占める日本では、土葬が可能な公営・民営墓地は極めて少なく、地域も限られています。また、日本の法律では死後24時間以内の埋葬が禁じられているため、教義通りの迅速な埋葬は不可能です。

ヒンドゥー教徒の葬儀

ヒンドゥー教では「輪廻転生」の教えが中心であり、故人の魂が来世に旅立つために、現世の肉体を清め、速やかに火葬します 50。インドでは、遺体を川の水で清め、薪を積んだ上で火葬し、遺骨や遺灰を聖なるガンジス川に流すのが一般的です 50。しかし、このような露天での火葬や、遺灰を川に流す行為は日本の法律では許可されていません。

ユダヤ教徒の葬儀

ユダヤ教では、人間は土から生まれたため土に還るべきであるという教えから、火葬は厳格に禁じられています。また、死後できるだけ早く埋葬することが重要視されています。イスラム教と同様、ユダヤ教も土葬が原則であるため、日本国内では埋葬場所の確保が最大の課題となります。
これらの事例は、日本の葬儀文化が「寛容」と見なされる一方で、その柔軟性が「火葬」という共通基盤の上で成立していることを示唆しています。土葬を原則とする宗教の慣習は、日本の法律や土地事情と根本的に衝突するため、日本国内で真に多様な宗教の葬儀を可能にするためには、社会的な議論と制度的な変革が必要不可欠です。

まとめ

本記事を通じて、日本の葬儀・供養文化が、伝統的な宗教儀式から、個人の価値観を反映した多様な選択肢へと大きく変化していることを示しました。この変化は、遺族の負担を軽減し、故人らしい旅立ちを実現する機会を広げる一方で、事前の準備や家族・親族との丁寧な話し合いが不可欠であることも浮き彫りにしています。
どのような葬儀や供養の形を選ぶにしても、その選択が故人らしさを尊重し、遺族にとって後悔のないものであることが最も重要となります。